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水産物 医食同源
マンマミーヤ! イタリアン! その20
掲載日:2005年3月29日
 まいど、まいど、イダテンのゲンさんです!
 東京はそろそろ花見の季節に入ってきてるが、お客さんの住んでるトコはどんな塩梅だい? 俗に花よりダンゴなんて言うけれど、日本の花見くらい、その言葉があてはまるものはねえだろうなあ。
 どうも花見の馬鹿騒ぎってえのは、今にはじまったことじゃないようで・・・落語の「長屋の花見」なんぞを聞いてもわかるように、長屋のみなさんも花を愛でるなんて無縁の話だったようだ。
 ただまあ、貧しかった昔のこと。落語の花見じゃ、酒が買えないからお茶を水で薄めて、気分だけ味わおうなんて具合だから、酔っぱらって正体を無くすわけにはいなかったようだ。無軌道な酔っ払いが出没する昨今、お客さん方は、どうか節度を持って飲んでおくんなせえよ。
 ともかくも、これであっしの商売と言えば、花見はちょいとした稼ぎ時だ。桜が相手なもんで、時期を完全に特定できないのが、アタマの痛えとこだが――南の方から、旅館や仕出し弁当屋さんの注文が、桜前線と一緒に北上してくださるのは、何とも嬉しい限りさね。
 ともかくも、このイダテンのゲンさん。日本全国津々浦々、安くて新鮮な素材をお届けいたしやすぜ!
  イタリアにもあった「医食同源」!
  レモン 今回は、ちょっくら趣向を変えて、南イタリアの「医食同源」についてお話いたしやしょう。時にお客さん――「地中海式ダイエット」て、言葉を聞いたことあるかい?
 おっと、こいつは近頃の流行りだそうだから、女性のお客さんなんぞは、あっしより詳しいかもしれねえが、少しばかりお付き合いいただきてえもんで・・・。
 ダイエットと一口に言うが、「痩せる」という意味だけではない。もともとダイエット(diet)とは「1日の食事」ということで――食事制限や健康維持が本来の意味なんだ。
 地中海式ダイエットというのは、いわば地中海式「医食同源」――痩せることのみを目的とするのではなく、食事によって健康を手に入れようって話さね。だから痩せ過ぎの人の場合は、当然、逆に体重を増やす(健康的に)こともあるわけで、本来のダイエットの意味に則しているわけさ。
 なんでもこいつは、1960年頃のこと――ヨーロッパで国勢調査をしたところ、南イタリアやギリシャのクレタ島の住民が、妙に平均寿命が長いってんで、疫学研究者たちが目をつけたのが出発だそうだ。
  写真 アメリカやヨーロッパの金持ちは、クレタや南伊の貧しき人々が、自分たちよりずっと健康で長生きだったのが、よっぽどショックだったんだろうな〜。昔から日本じゃあ「粗食は長生きする」なんて言われていたから、そんなのあっしらが聞いても驚きゃしないがね(もっとも粗食は長生きってえのは正確じゃない。バランス良く、食い過ぎないってことさね)。
 そこで、彼らの食事や生活習慣を徹底的に調べた結果、たどりついたのが地中海式ダイエットだったんだそうだ。
 なにね、よくよく聞いてみりゃ、その極意というのは実にシンプルで、適度に食べ、適度に動き、適度に休息をとることなんだそうだ。あっしなんざ、よく食べ、よく動き、全然休まないから、そんな意味じゃあオーバーワーク気味だがね。
 地中海式ダイエットの食事は野菜と果物、そして穀物が中心。それを毎日十分に食べる。油はオリーブオイルを使い、チーズやヨーグルトなどの乳製品を適量。タンパク質は豆と魚介類が中心で、肉は少なめが望ましいが、食べてもまったくOKだ。
 仕上げは食事と一緒に適量のお酒を飲む。うーん、こいつはなかなか嬉しいダイエットじゃねえかな〜♪
  海は健康も運ぶ
   地中海式ダイエットのルーツをさらに遡れば、サレルノというナポリから電車で1時間の小さな町にたどり着く。海の美しいこの町は、ヨーロッパ最古の医学校発祥の地で――同じ湾の並びには、歌で有名なソレントやアマルフィなどの観光地がある。
 前回も申し上げたが、ナポリからサレルノ、アマルフィといったカンパーニア地方は、中世にナポリ、ジェノヴァ、ヴェネチア、ピサという4大海運国と謳われただけあって、海の交差点とも言える土地柄だった。
 サレルノも7世紀半ばには、自国のラテン文化に加え、東のギリシャ&ビザンチン文化、そして北アフリカやスペインから、アラブやユダヤの文化が流入していた。
 その関係で、最先端の知識を持っていた人たちが、この小さな土地に集まってきたんだ。その中には志の高い医学者たちも多く、智恵とお金を集結させた彼らは、何と世界で最初の医学校をぶっ建てちまったのさ。
  写真
   言葉はもちろん、宗教や文化、それこそ食べ物などの習慣も異なる医師たちが集まり、健康について論じ合ったて言うんだから、大したもんさね。
 ここで大切なのは、いくら議論をしても、実際にそれを実践する人と材料がなければ、単なる机上の空論。何事も実践をともなわない考えは、畳水練に過ぎないが――どうやらサレルノの医師たちは違っていた。ここにはきっと、さまざまな土地から運ばれてくる豊富な食材、あるいは薬草、ハーブ、スパイスなどが満ちあふれていたんだろう。
 まさに欧州版・医食同源のはじまり、はじまり〜ってことさね。
 もっとも、それがすぐに「地中海式ダイエット」に結びついたわけではない。南イタリアには医食同源の考え方が、昔から自然にあったというわけだ。
 当時の医師たちが編纂した「サレルノ養生訓」には、文字通り医食同源が説かれており、食事療法などの処方、節制の大切さが記されてある。日本でも出版されているので、興味のあるお方はぜひ一読しておくなせえ
  イタリアに漢方あり?
  写真 さて、もともとカンパーニア地方は、ラテン語で「幸せの地」を意味するだけあって、温暖で風光明媚な風土に恵まれてる。
 ナポリをはじめ南イタリア地方は、B.C.5世紀――ギリシャの植民地として出発したとされているが、早いうちにローマに同化され――ポンペイやエルコラーノの遺跡を見てもわかるように、まあローマの衛星都市みたいなモンだったのさ。
 そんなローマ人たちが持っていた知識に、ハーブによる薬草学があった。オリンピックでおなじみの月桂樹をはじめ、オレガノやマジョラム、ローズマリー、セージなどは、どれもローマ時代からの古株だ。
 その後、中世以降に海をわたって南方からスパイスがやってくると、食い意地の張った神父や修道師が僧院の中で、薬草酒なるものを作りはじめた。
 フェンネルやルバーブ、ミントは食欲促進の効果。アニスには咳を鎮め、利尿作用がある。ショウガとシナモンには胃を丈夫にする上、発汗作用と保温作用がある。バジリコやローズマリー、セージには殺菌作用や、胃腸の調子を高め、消化を促進させる等など・・・。
   ハーブやスパイスの効能を熟知した連中が漬け込んだリキュールは、漢方に近いものとして注目したい存在だ。薬草酒は南イタリアだけでなくイタリア全土にあるが、カンパーニアで有名なものはリモンチェッロという、レモンの皮をアルコールに漬け込んだものがある。 
 陳皮(ミカンの皮を乾かした生薬)など、柑橘類の皮には咳止めや発汗、健胃剤の効果があるから、リモンチェッロにもそんな効能が期待できるんじゃねえかな〜。ま、飲み過ぎたら何でも逆効果だがね。
 ほかにもアーティチョークを漬け込んだチナール。アマーロというリンドウの根※1を漬け込んだ薬用酒。さらにマラリアの特効薬キニーネを漬け込んだグラッパ※2まであるってんだから、キリスト教の坊主たちも、なかなかアナどれないってとこさね。
 
   
※1/ アマーロは「苦い」という意味だが、実際は甘いものが多い。リンドウの根はそのままでは毒だが、これが薬用に変化するためか、詳細の製法は不明。
※2/ ワインに使うブドウの搾りかすで造った蒸留酒。
   
  イタリアに根づかなかったアラブ文化
   地中海式ダイエットの優れている点は、人間の営みに逆らわないってことだろう。人間は食べたいのをガマンできないし、眠いのもガマンできない。そら〜1日2日徹夜したり、飲まず食わずでも死にはしないが、そんなこといつまでも続きやしない。
 余談になるが、ご存じの通りイスラム教にはラマダンってえ断食月がある。
 断食といっても、もちろん1か月飲まず食わずでいるわけではない。1日のうちお天道さまが顔を出してる間は、水はおろか生唾飲むことすら許されないという、ムスリムの習慣だ。
 その代わり、日が落ちたあと何をどれだけ食べようと思うがままなのさ。
 イスラム教徒は、この時アッラーの神に感謝を捧げながら、食べる喜びをかみしめるそうなんだ。もちろん食べ物に感謝する気持ちはすばらしいのだが、ラマダン中にこのドカ食いで太る人が多く、最近ではダイエットを気にする女性も多いらしい。また1年のうち、食料消費のいちばん多いのがラマダン月だそうで・・・いわゆるリバウンドと同じような現象だ。当然、仕事の能率も落ちるので、社会問題になっているようだが、なんせ神さまの意志なもんで、どうにもならないそうだ。
 南イタリアはイスラム文化の影響を色濃く受けてはいるが、禁酒の教えやラマダンなどが壁になったのか、定着はしなかったようだなあ。
  色は命の源でえ!
  写真 ともかく余分なカロリーを意志の力で節制したり、運動で燃焼させることは難かしい。
 地中海式ダイエットの特筆すべきは、食べることを極端に抑制しないことだ。デンプンなど穀類を十分に摂ることはもちろん、サカナによるタンパク質を推奨してるのも嬉しいトコだね♪
 南イタリアの食では、色のついた野菜や果物を多く摂れるのが良いみたいだ。これは以前お話した、中国の医食同源では陰陽五行説に基づく、青・赤・黄・白・黒――五色(ごしき)の食べ物をバランス良く食べなさい、という考えに近い。
 色のついた食べ物を摂ることには、きちんとした意味がある。リコピンやカロチンの赤や黄色の効能といった、化学的分析はもちろんなんだが――それはもっと根源的な「食べること=命をいただく」という意味につながるからだ。
 なに。ゲンさん、薮から棒に、坊さんみたいなことを言うって?
 うーん。あっしが言ってるのは、もっと化学的な意味なんだがね(もちろん、信心に近い意味もあるんだがよ)。
 こないだ知り合いの学者先生に聞いたんだが――生き物に色がついてるにはそれなりの理由がある、つまり色素ってえのは変化しやすい物質だから、環境のちょっとした変化に対応できるって言うのさ。
 たしかにトマトは短期間で緑から赤に変わるし、イカやタコに至っては瞬間的に色を変えられるし、サカナなんぞは、生きて泳いでる時と水から揚がった時では、まるで色が違う。あまりに安定している成分ばかりは、生物として命を保つことができないってえんだ。
 難かしい理屈は色々あるだろうが、色のあるものをいただく=命をいただく・・・そんなことが、どの国にせよ医食同源の基本にあるのかもしれねえなあ。
 さーて、時間がきやがった。
 じゃあ、お客さん! 次回をお楽しみに!
   
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