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水産物 医食同源
食いねぇ、食いねぇ、寿司食いねぇ! (寿司その七、アナゴ編)
掲載日:2003年04月15日

 
 まいど、まいど、イダテンのゲンさんです!
 いや〜。何だか知らねえけど、世の中ゴタゴタしてやがるなあ、本当に! 前回あっしは、この原稿がサイトアップされる時には、いったい世の中の状況がどうなっちまうのか見当がつかねえなんて言ったけど、まったくワケのわからない時代になってきたもんだ。
 イラク戦争だけならまだしも、新型の肺炎まで出てきやがったもんで、今月はとうとううちの若い衆も香港出張を取り止めさ。まあ、世の中こんなこともあらーな。
 だがよ、日本人はこんな時代だからこそ!…って心意気を見せてほしいもんだ。
 不景気だとか失業率がハチのアタマだとか言ってるけど、あっしに言わせりゃ昔の日本人は、幕末から明治の動乱、昭和大恐慌に関東大震災…そして大東亜戦争と、もっともっと大変な時期を克服してきたんだ。へへ、てやんでえ! このくらいの不景気、別にどーってこたーねえやな!
 バブルの頃に働かないでも儲かる味を覚えちまったのがいけなかったのか、その前から日本人の勤労意欲が下がってきちまったのか…。やっぱり、大切なのは日本人の志気、やる気の問題だろうよ。
 資源も何もない日本で食べて行こうと思ったら、一所懸命に勉強して働くしかないだろ? 働けることを有難いとする日本人が、「労働を神の罰」とする西洋の考えを鵜のみにしちゃいけねえ。
 まあ昨今、このゲンさんだって、稼ぐおアシは一緒なのに仕事量ばかり増えて仕方ねえや。でも働けることをお天道さまに感謝して日々の精進さ。そんなんで、皆の衆! 旨いサカナでも食べて気合い入れようぜ!
   アナゴは『煮ものネタ』の代表格でえ!
   さて、今回は好評、寿司の7回目。いよいよ、話も佳境に入ってきた…ってなもんで、今回はアナゴの話をいたしやしょう。「医食同源」では、以前にもアナゴの話をしたことがあったけど、今回はそれとは別に寿司ネタとしてのアナゴだ。
 言うまでもなくアナゴというのは、江戸前寿司にとってはマグロとコハダ、そして玉子焼きと並んで寿司職人の腕が試されるネタだ。寿司ネタの中では、いわば『煮もの』と呼ばれ、醤油やみりん、砂糖、酒などによって煮上げたネタに、煮ツメ…つまりタレを塗って食べる。レシピが複雑で手間がかかる上、店によっても調理法がさまざまだから、寿司職人としての腕を存分に発揮できるシロモノさ。
 イカやタコ、ハマグリやアワビなど煮ものネタは数あれど、やはりその代表格はアナゴにとどめをさすだろう。
 しかし、今でこそアナゴといえば、寿司屋の看板メニューを飾るほどの大ネタだが、どうやら江戸時代にはそうでもなかったらしい。
 江戸の博物学者・貝原益軒(かいはらえきけん)の記した大和本草によれば、「アナゴ…ウナギに似るが、脂少なく、味ウナギに劣る」と記されているし、他の資料を見ても似たり寄ったりの評価しか得られていない。
 少ないとされる脂の中にこそ、えも言えぬアナゴの旨味とがあるのだが、当時は現在のようなレシピがなかったんだろう。
 煮アナゴをはじめたのは、今から160年ほど前、江戸宿場はずれは鮫州にあった、川崎屋という小さな茶屋だったそうで、不便な場所だったろうに当時は随分繁盛していたらしいや。(まあ、本当に川崎屋という店が元祖・煮アナゴだったかどうかは、今となってははっきりしないがね)。
   「活じめ」と「活け」って?

 

 一口にアナゴといっても、店によって調理法は色々と異なる。アナゴの種類とか、関東と関西による 好みの違いについては、以前「夏バテにはアナゴがいいぜ!」の回でお話ししたから、ここでは省略することにするとして…まずは煮ものネタとして、アナゴの「活じめ」と「生け簀でのねかせ」の話をしてみよう。
 今のアナゴはほとんどが「活け」…つまり漁獲したサカナを囲いに入れて生かしておくのが中心だが、その昔は「野じめ※」…いや、「活じめ」アナゴが多かったことも覚えておいていただきてえ。
 それというのも昔の寿司屋は「殺生はいけねえや」ってんで、生きてるサカナを使いたがらなかったそうなんだ。まあ、自分で手をくださないだけで、誰かが殺生したサカナを握るんだから、間接的に殺生をしていることに変わりはねえんだが、そんな気持ちが昔の人にはあったんだろうな。
 弘法大師の高野山なんぞに行くと、サカナとか獣なんかの供養塔があちこちにあるけど、あっしらみたいに生き物を商売のネタにさせてもらってる者としちゃ、その有難さを忘れちゃいけねえと思ってるよ。
※ 今は『野じめ』というと、『活じめ』の反語として使われている。つまり、『活じめ』が漁獲した直後にシメて処理したものなのに対して、『野じめ』は捕ったサカナを氷水などに漬けて殺したものを指すわけだ。こいつは広辞苑にも書いてあることなんだが、たどっていくと、どうやらモトの意味は逆だったという説もある。その辺が、言葉ってえのは不思議なもんだという例だろうな。

   あなたはプリプリ派? それともふっくら派?
 

 プロのみなさんには「釈迦に説法」だろうけど、サカナってえのは何でもかんでも生きてるものを、すぐシメるのが旨いわけじゃない。
 弱ったサカナをその場でシメたものより、多少時間は経過していても、取れたてで活きの良い時に「活じめ」にした方が美味しい場合が多いんだ。(また、暴れたりした時につくキズがつかないというメリットもある)。
 ところがアナゴの場合ややこしいのは、そうとばかりも限らないことだ。
 何しろ、こいつらときたら物凄い悪食で、鋭い門歯で大抵のモンを食べちまう。アナゴはそのため餌持ちが悪いと言われ、いわゆる「腹ヤケ」というのが残ってしまう。腹ヤケは見栄えの良いもんじゃないし、臭みを抜くのも手間がかかるんだ。
 また、活じめのアナゴはどう煮ても、冷めると身が締まって固くなるんで、包丁でたたいたりして柔らかくするといった工夫が必要だ。
 そんなんで、現在のアナゴ「活け」が主流だ。
 知ってるかい? スイサンドンヤ・ドット・コムさんの場合も「生け簀でのねかせ」を採用しているんだぜ! 飲んでも美味しいような落とし水を生け簀で一晩水に打たせて、悪いもんをみんな吐かせてから加工するんだ。 これをすると、変な青臭さが抜けるてウマいんだな! 
 アナゴにはニカワ質のヌルッとした皮があって、このやり方だと強火に通した時、より香ばしさが出て旨いんだ。(おっと、いけねえ。こいつは前にも話したよな)。
 余談になるが、アナゴの場合、生け簀に入れる時は他のサカナを入れちゃいけない。これは何しろ獰猛な連中だから、自分より大きな魚でも尾ヒレなんかに食らいついて、商品価値を半減させる恐れがあるからなんだ。「生け簀でのねかせ」アナゴがふっくらと柔らかく、舌の上でとろけるような感触なのに対して、「活じめ」アナゴはプリプリした軽い歯ごたえと、独特の野趣溢れる旨味が口の中に広がるといった違いがあるんだな。
 まあこれは、どちらが良いかということではなく、持ち味が違うから食べるその人の好みに分かれるというワケだ。

   アナゴのレシピは千変万化

 

  寿司ネタにするアナゴの煮方は、店によってさまざまな工夫が凝らされている上、門外不出なんてトコも少なくねえ。
 また、東京湾のアナゴか中国黄海産か、明石海峡産なのか、産地によって肉質が全然違うなどのこともあって、これが決定版と言えるものがあるわけじゃない。
 しかし基本的なレシピというのはある程度共通しているから、あっしのわかる範囲でお聞かせいたしやしょう。
 まずはアナゴのアゴに 「目打ち」をして、まな板に固定させてから開くんだが、関西は腹から割き、武士の町だった江戸前では腹切りを嫌って、背開きにしてからアタマを落とす。こいつはウナギでも同じことだな。
 次にタップリの真水で水洗いをするんだが、店によって2つにやり方が分かれる。アナゴ独特のぬめりを残して洗う店と、 なるべく落としきる店とがある。
 まあ里芋なんかでもそうだが、ぬめりというのは人によっても店によっても好き嫌いが出てくるモンだがね。
 ぬめり「残し」派は、ワタや血の汚れをとるくらいで充分と、ごく軽く洗う。
 ぬめり「取る」派は、脂抜きでもするような意味で、たんねんに洗い切る。どちらにしてもこれで下ごしらえは完了だ。

   煮方で寿司職人の力がわかる
 

 下ごしらえが済んだら、いよいよ煮方だ。煮込みに使う調味料…タレは店によって秘伝だったりする場合もあるが、基本的には濃口醤油一、みりん二、水一を基本とする。
 みりんの量を減らして日本酒を用いたりする場合もあるし、みりんや酒に甘味が足りなかったりする場合は砂糖も適宜、加える店も多い。
 アナゴとタレの割合はひたひたってトコかな。鍋を強火で火にかけ、煮立ったところにアナゴを入れるんだが、この時の塩梅が難しい。
 築地30年・サカナにかけちゃあ、自他ともにうるさいと認めるイダテンのゲンさんも、この塩梅に関しちゃあ何も口出しできねえ。ここいらが職人の腕の見せどころだ。
 煮方によっては、アナゴの臭みが蒸発せずに残ってしまう。反対に水気を蒸発させすぎるとアナゴの香りが消えてしまう。なんとも難しいとこさね。
 こいつを炭火でジュジュっと焼き目をつけて、煮ツメを塗れば…あおお! く、口の中で、アナゴがうおおお!
 ちなみに昔は煮上げたアナゴを、そのまま冷やしてから握る場合がほとんどだったそうだ。大正時代くらいから、煮アナゴをさらに焼くといったレシピが広まったわけだが、店によっては焼かずに出すところもあるようだ。
 どうでえ? 寿司ってえのは握られて、口の中に入るのはアッという間でも、ずいぶん仕込みに手間のかかるもんだろう。生ザカナをスライスしてご飯の上にのっけたら寿司になるってモンじゃねえのさ。これこそ、日本が世界に誇れる文化ってヤツだ
よ。
 おっと、小腹がへってきやがった! それじゃあ、ちょっくらこれからアナゴでもつまみに築地にでもくり出すとするかな。
 それじゃあ、お客さん! 次回をお楽しみに!

   
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