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水産物 医食同源
食いねぇ、食いねぇ、寿司食いねぇ! (寿司その四、江戸前寿司編)
掲載日:2003年01月30日

 
 まいど、まいど、イダテンのゲンさんです!
 2003年、お客さんたちのどんなカンジで動いているかい? 
 今年、あっしは何10年ぶりかに家でゆっくり正月を迎えたモンで、今頃になってツケがまわってきて大忙しよ。まったく貧乏性のゲンさんが、のんびりおコタなんかに入ってちゃあいけねえやな!
 そんなワケで、こないだはスイサンドンヤ・ドット・コムさんに商品を提供してくださる、生産者のみなさんにアイサツまわりをしてきた。 あの人たちの商売は生き物相手だから、盆も正月も関係ありゃしねえんだよ。
 生産者という人種につきあってみればわかるけど、真面目の上にクソの字が(おっと、お下品でゴメンなよ!)つく人が少なくない。アタマの中はフカヒレのことしか入ってないとか、ホタテのことしか考えていないなんて具合に、自分が関わってるものにものすごい情熱と誇りを持っているんだ。
(生産者さんのことは、今度お配りするパンフレットにもしっかり載せてあるよ。よかったら読んでくんな)。
 なにしろ食べるって行為は、命をいただいて生き長らえるってコトだ。ベジタリアンだとか言ったところで、命あるものを食べる行為には違いはねえ。昔から食べ物を粗末にしちゃいけねえって言うのは、せっかくそんな生き物 のお命をいただくんだから、そいつをムダにしたらバチがあたるってことさね。
 まあ、せっかく命あるものをいただくんなら、丈夫でピンピンしたヤツをいただいた方が良いに決まってる。生産者さんってえのは、そんなイキの良い食材を作っている連中なんだ。
 みなさんも、このイダテンのゲンさんが買い付けしてきた選りすぐりの食材を、どうぞ食べておくんなせえや!
   江戸前寿司、生みの親は花屋與兵衛?
   さーて、ご好評をいただいている寿司の話もこれで4回目。今まで寿司の歴史の話をしてきたが、今回でようやく江戸前寿司のお目見えだ!
 江戸前寿司の登場がハッキリといつかは断定できないが、どうやら江戸後期は文化・文政の時代(1817年頃)に登場したらしい。生みの親は花屋與兵衛(はなやよへい)なる人物だといわれてる。ファミレスチェーンの屋号にもなってるから、聞いたことはあるかもしれねえな。
 何? あれは「華屋与兵衛」だろうって? ううむ。こいつはどちらが正しいかはハッキリしねえんだ…ただ、店鋪の名前にするには華屋与兵衛と書いた方が旨そうに感じるからじゃねえかな?
(以前、マグロの回では「華屋与兵衛」と書いたんだが、色々資料を調べた結果から、今回は花屋與兵衛と表記することにするよ。どうぞ勘弁しておくんなせえ)。
 ただ、この花屋與兵衛が握りずし発案者説というのが、今では一般的になっているが、実際のところはハッキリしない。
 こいつはウナギで言う「土用丑の日」のコピーライトの考案者が、平賀源内か山東京伝かみたいなモンで、今となっちゃ知る人もなしってことさね。
 深川の「松が鮓」店主・堺屋松五郎なる人物が、実際の考案者だという説があるし、会津天満宮の神主が、江戸に出てきて握りずしを発明したなんて珍説もある。残念ながら、これらを確定できる資料は現在残されていない。
 ただ、花屋與兵衛が江戸前寿司を爆発的に普及させた人物であることは、どうやら間違いないようだがね。
   大ブレイクしたお江戸のファストフード

 

「鯛ひらめ いつも風味は與兵衛鮓
 買い手は見世にまって折詰」
「こみあひて 待ちくたびれたし與兵衛鮓 客ももろ手を握りたりけり」
 こいつらはこの時代、花屋與兵衛の人気を詠んだ狂歌さ。
 一説によると花屋與兵衛は、福井藩は下級武士の倅だったという。9歳の時に蔵前にあった札差(旗本、御家人の年貢取り立て代行業者。金貸しも兼ねていた)に丁稚奉公したあと、二十歳過ぎに独立し、古道具屋や干し菓子屋など商売を次々に変えたのち、江戸前寿司を考案したと伝えられている。きっと器用で気のきいた男だったんだろうな。
 当時、江戸で人気のあった寿司は、前回お話したような箱ずし…いわば今の大阪寿司のような押しずしだったという。
 しかし、パッと来てパッと食べられる、いわばファストフードの元祖ともいえる握りずしは、気の短い江戸っ子にたちまち人気となり、江戸中の寿司屋のほとんどが「握り」に移り変わったって話だ。
 へへ。まあ日本人の変わり身の早さは、今にはじまったことじゃないってコトさね。
 江戸時代の寿司が屋台で商売をしていたというのは有名な話だ。だが、寿司屋が屋台で商売してたってえのは江戸前寿司が流行する以前からのこと。
 花屋與兵衛さんは、はじめは両国界隈…今の国技館のあたりで屋台を広げて商売をしていたようだ。そのうち小金が貯まってきたってんで、両国回向院前に小さな店を持った。
 この店「與兵衛ずし」が当たりに当たったそうなんだ。江戸の町人ばかりじゃなく、武家屋敷からも注文が相次ぎ、江戸前といえば「與兵衛ずし」と呼ばれるまでになった…それが、花屋與兵衛が江戸前寿司の父と呼ばれるようになった由縁だろうな。
   江戸前寿司は屋台と内店に二極分化
 

 「與兵衛ずし」は昭和のはじめくらいまで、両国の同じ場所で営業をしていたそうだ。
 また、屋台の寿司屋も昭和初期くらいまでは、けっこうその辺にあったらしい。今で言えば屋台のラーメンみてえなカンジだったんだろう。それが東京大空襲以後は、小さな屋台なんかはみんな灰燼と化し、そんな伝統は全部途切れちまったんだろうな、きっと。
 さて、江戸前寿司の台頭期。当たりに当たった「與兵衛ずし」や深川の「松が鮓」は、高級店へと進化したそうだ。 屋台に対して、そんな料亭のような高級感で売る店のことを「内店」と呼んだんだな。
 商売ってえのは、数が増えていけば二極分化されていく傾向があるが、この時代も安さでお客さんを満足させる店と、高級感で客を喜ばせる店に分かれていったんだ。
 屋台の職人の中には腕の良い者もいたそうだが、江戸っ子に多いその日暮らしの連中も少なくなかったようだ。
 「オヤジ、手が汚れてるぞ」
 「てやんでえ! 握ってるうちにきれいになってくんでえ」
 衛生観念が違う時代だったとはいえ、こんなムチャクチャな職人もけっこういたらしい。その一方で「腕一本でおまんまをかせぐ」、意識の高い腕きき職人も多かったそうだ。
 今でも価格の安い店ってえのは、味やサービスの善し悪しの違いがハッキリするもんだが、それは江戸時代でも同じことだったんだな。

   お江戸のお寿司はお握りサイズ?

 

 とはいえ当然、高級内店と屋台では手のかけ方も違った。
 安価な屋台の寿司は、当然ながら大勢の客をサバかなくてはならない。そのためには、少しでも手間を省いて、なるべくスピーディーに一個でも多くの握りを出したいと考えるのは当たり前の話だ。今で言えば、コストパフォーマンスを下げるってコトだな。
 どうしたかって言えば、手間のかかる調理の必要なものをやめて、ネタを生のまま切り身で出すようになったってことさ。
 お茶…いわばアガリひとつにしても、湯のみを大きくして、何度も入れ替える手間をはぶくく企業努力をしていった。
 その方が仕事も早いし見た目だって新鮮だ。魚さえ新しけりゃ、味だったそっちの方が旨い。第一、もったいぶった昔の寿司より、サカナをサバいて生のままポンポーンポーンと出す、こっちのタイプの方が江戸っ子向きだあな。
 これが人気となり、ついには内店の方も屋台方式にならって、刺身をご飯の上に乗っけた寿司に切り替っていったってわけさ。
 まったくご先祖さまの企業努力、あっしらも見習うべきモンがあるよなあ。
 ついでに言っておくと、当時の握りずしは今のものよりはるかに大きく、ちょうどお握りサイズくらいだったのかな。もちろん、ひと口で食べられる大きさじゃねえ。
 銭湯の帰り道、2〜3個ばかり、小腹をふくらませるのにちょっとつまむってカンジで…まあ分量的に言うと、今のハンバーガーにあたるもんだったんだろうな。

   寿司の極意は「握り」にあり!
 

 明治30年くらいになると氷冷蔵庫なるものが出現し、この頃から寿司はいっそうナマものが喜ばれるようになっていった。
 もちろん今みてえに冷凍技術が発達すると、下手すりゃホタテみたいにナマより冷凍ものの方が旨いなんて逆転現象まで出てくる始末だ。
 しかし、あっしは寿司ってえのがもともと保存食からはじまったことを忘れてはならねえ と、常々思っている。寿司の原点ってえのは、やはり熟れずしなんだ。
 本当に旨い寿司ってえのは、その場で食べてももちろん美味しいんだが、ある程度時間がたってからでも美味しいもんだよ。
 寿司の本当の旨さってえのは、握る瞬間にわずかに醗酵することからくるんだ。握った瞬間、醗酵がすすみシャリとネタどうしの味がこなれてくる。…そのわずかな「熟れ」こそが江戸前寿司の旨さなんだな。
 銀座で店を持つ、あっしの知り合いの寿司名人に言わせると、寿司ってえのは「お握り」の握り加減が理想なんだというが…この「握り」こそが、まさに寿司の本質といえることなんだ。
 そいつを忘れて、ただネタだけ新鮮なものを出しても本末転倒ってことになる。
 何であっしが、今まで寿司の歴史の話をしてきたかって言うと、寿司の本質は醗酵食品にあり、その極意は「握り」にあるってことを言いたかったがためなんだ。
 前にも話したと思うけど、よく漁師の船に乗ったリポーターたちが、なんとかのひとつ覚えみたいに、とれとれのサカナを「甘い甘い」「プリプリしてる〜」とか連発しているが、 採りたてのサカナってえのは何食ったってプリプリして甘いもんだ。
 肉みてえに落としてから何週間かで旨味が出るものとは違うけど、サカナも水揚げしてから ある程度時間をおいた方が美味しくなる。 寿司ネタだって同じことで、また握り方ひとつで、その味の引き出し方も変わってくるんだよ。

 さて、ようやく4回めにして江戸前寿司のお目見えだが、次回は寿司ネタについて聞かせたおしてあげやしょう。
 おおお、また寒くなってきやがった。へへ、そんじゃ、お客さん。あっしはこの辺で 失敬して、熱燗でマグロのヅケでも食べに行くとするかな。

   
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