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水産物 医食同源
食いねぇ、食いねぇ、寿司食いねぇ! (寿司その二、寿司と日本編)
掲載日:2002年12月18日

 
まいど、まいど、イダテンのゲンさんです!
 いやあ、お客さん。毎年この時期になると思うことだけど、年をとるたびに、1年を過ぎるのがだんだん早くなっていくな〜。
 去年の9月11日、あのニューヨークを襲ったテロから、はや1年あまり。今年1年、あっしらの商売は連中のおかげで、えらくワリを食っちまった。なんせ、あっしがエビやらサカナを買い付けに行くところってえのは、なぜかテロリストの巣窟みたいな場所が多いんだ。
 テロリストなんてチンケな奴らを怖がってちゃあ、サカナ屋さんはできねえが、なにしろ相手は武装したイカれた連中だから、そりゃあ気をつけなきゃいけねえ。でも、築地30年イダテンのゲンさんはサカナの目利きだけじゃなくって、そんな危険地帯を渡り歩くマニュアルも知ってるんだなあ。
 おっと、みなさんは君子危うきに近寄らずで、決してマネしちゃいけねえよ! あっしだって、できることならそんな奴らのいるトコにゃあ行きたくねえんだ。でも、美味しいサカナのためなら地の果て、地獄の底まで追いかけて行くのが、あっしらの商売の心意気ってモンだ。
 おかげさんで他の商社やサカナ屋が寄り付かない場所だもんで、こちとら新鮮なネタをわんさか取り放題。(でも、そんな苦労も、お客さんが喜ぶ顔を見ると、アッと言う間に吹き飛んでしまうもんだよな〜)。そんなこんなで、年末からこれから正月にかけては、そんな新鮮なネタを使ったお寿司の時期だ。
 今やお寿司日本が生んだ世界に誇れる国際食! そんな寿司の話を前回に引き続き、タップリ聞かせ倒してあげやしょう。
   進化する寿司たち
   こないだあっしは冷凍寿司のメーカーさんに招待されて、ロサンゼルスまで行ってきた。今や一部のアメリカ人の寿司好きは、ハンバーガーに迫る勢いかもしれねえ。
あのスピルバーグも寿司が大好物で、週に5回くらい食べることもあるそうだが、多分アメリカでハンバーガーが好きな連中より、寿司はもう少しハイソな人間が好むみてえだな。
 だからって、フレンチのフルコースを食べるほど気合いを入れるほどでもねえ…ちょうど日本でいえば手頃なイタ飯ってカンジなんだろうかい。
 あちらじゃ、マグロの赤身とアボカド、トマトのちらし寿司を食べたけど、けっこうイケるもんだ。米は日本の寿司ねたと違って、蒸してあった。リゾットみてえに、少し芯が残るように火が入っていて、米の表面が舌にからみつくような感触なんだ。
多分リゾット同様、米を研がずにオリーブオイルで炒めたあと、水を加えて煮立ててるんだろうな。
 酢は米酢じゃなく、ワインビネガーか何かみてえだったな。米には米酢の方が、全然相性はいいんだが、まあこれもサッパリしていて、またよしだ。
 人間慣れってえのはおそろしいモンで、はじめの頃はあっしも『こんな邪道な寿司、食えるけえ!』ってテーブルをひっくり返すイキオイだったのが、今じゃあ、そんな米国寿司を食いにアメリカへ行くのが楽しみになってきた。
 まあ考えてみりゃ、前回の話同様、寿司のルーツを2400年前の中国に辿ってみれば、江戸前寿司の歴史なんてたかだか200年くれえ前の話だ。ものごと伝統なんてことを言い出しはじめると、形ばかりにこだわって、肝心カナメの味がお留守になる危険もある。
 江戸前寿司は洗練されて行き着くとこまで行った、なんてこと言う人がいるのなら、ここいらで新しい血を入れて邪道寿司もいいじゃねえかってえのが、あっしの意見だ。
 へへ、まあ何だって、旨けりゃいいのさね。
   寿司ネタとシャリは温度が違う

 

 そんなもんだから、冷凍寿司がどこまできてるのか、日本のお客さんの舌を満足させることができるのか、楽しみに海を渡ったんだがよ…。
 うーん、まあ味的にはそこそこ美味しいが、あっしにはどうしても気になる点があるんだよなあ。
 つまり、寿司ってえのはネタの温度がだいたい摂氏7℃、シャリの温度が12℃と違うんだ。江戸前寿司は合わせる素材どうしの温度が違うという、一般的な料理の中ではきわめて珍しい食べ物なんだ。
 食べたときに口の中で広がる、微妙な温度差を楽しむ食品でもあるんだな。
 それをネタからシャリまで 全部冷凍にしちまうと、『おいおい、そいつはねえだろう』ってコトになるんだよ。
 まあ、もう少し安い値段なら『価格も味のうち』ってんで、いいんだろうけど…そんなに安くはねえんだよ。まあ、この問題がクリアされるまでは、このイダテンのゲンさんも《丸ごと冷凍寿司》を扱うことはできねえだろうな。
   古代中国鮓のレシピはいかが?
 

 さーて、前回は寿司の起源の話をしたんだっけな。2400年前の秦の時代に生まれた寿司のルーツは、キリストさまのおっしゃった『預言者は自国で受け入れられない』じゃねえけど、中国ではなぜかそれが衰退した。
 前回も取りあげたように、後漢末期(AD200年頃)の「釈名(しゃくみょう)」という本ではじめて米とサカナの関係が出てくるわけだが、それから中国ではスシとお米の縁がだんだん薄くなっていくんだ。
 もともと、この時でもサカナだけ食べて、米の部分は捨ててしまっていたそうだがね。
 さて、日本にわたってきたスシのルーツは、北魏の時代(AD530〜550年頃)に残された《斉民要術(せいみんようじゅつ)》に、そのレシピがある。
 いわゆる、米とサカナを混ぜてから、重しに漬け醗酵させる「熟(な)れずし」だな。
 7つあるので取りあげてみようや。

  1. 裏鮓(つつみずし)
    切り身のサカナを洗い、塩をしてアジメシ(米を塩水で炊き込んだ飯)を混ぜ、ハスの歯で包む。『押し』はしない。
  2. 蒲鮓(がまずし)
     60cm以上のコイをおろし、塩漬けして一晩置く。アジメシを厚く添える。
  3. 塩ぬき鮓
     サカナを切り分けてから短時間にサッと塩漬けする。すぐに水洗いし、飯と一緒にくるむ。
  4. 長沙蒲鮓
    長沙は中国湖南省東部。大きなサカナを料理し、洗ってから魚がかくれるほどの塩をする。4〜5日おいてから塩を洗い、白米と炊き塩で飯をかもす。
  5. 夏の鮓
    サカナの切り身一斗に対して、塩一升八合。米三升。器の中に酒やミカンの皮、ハジカミなどの香辛料を入れて、押す。
  6. 乾魚鮓(ひざかなずし)
    春から夏にかけてのレシピ。干したサカナを水で戻し角切りにしたものを、アジメシと香辛料と混ぜ、瓶に入れてからハスの葉で口を閉じ、泥を塗って封じ込む。
    酥(ちちあぶら/バターの一種)を塗り、火で炙ると美味しい。
    スープにしても美味しい。
  7. 豚肉鮓
    ブタは生後6ヶ月の太った小豚が良い。短冊に切って火を入れ、調理したあとはサカナと同じく、アジメシと香辛料と混ぜ、瓶に入れてからハスの葉で口を閉じ、泥を塗って封じ込む。
    酥を塗り、火で炙ると美味しく、スープにしても美味しい。
   台湾の熟れずしはクサいぜ!

 

 その後、中国ではサカナとは縁のない、チンギス・ハーン率いる元に征服されるせいか、すっかり姿を消してしまう。
 この川魚や豚肉のスシがどんなモンだったのかは、知るよしもない。しかし台湾の山岳地域に行くと、少数民族であるタイヤール族とかいう人たちが、スシのルーツに近い醗酵食品を食べているそうだ。
 ハヤなどのサカナや豚に塩を加え、米ではなく、粟(アワ)と一緒に漬けるもんだ。こいつは凄い臭いだそうで、これには日本の鮒ずしなんて大人しいモンだそうだよ。グチャグチャの塩辛みたいで、まあいわゆる酪酸臭ってやつかな。
(スエーデンにはシュールストレミングとかいう、ニシンを漬けた世界一臭い缶詰があるそうなんだが、それとどっちが臭いのかな?)

   日本の寿司の原型は鮒ずしにあり!
 

 中国でスシが姿を消してから、日本にどう伝わって発達するのか、ハッキリと示す資料は少ない。わかっているところで資料が出てくるのは、それから1000年以上経った安土桃山時代になってからだ。
 前回も話した通り、秀吉が鮒ずしを好物としていて、朝鮮出兵の際、陣中見舞いに鮒ずしを献上されたってことさね。
 この鮒ずしというのは、どうやらそのはるか昔からあったみたいで、おそらく1000 年以上前からあったんじゃないかな。日本のスシの原型と言っても良い存在だが、その技術も味も洗練のきわみにある。
 鮒ずしに使われるのは、細長く大型のものが良いとされている。5〜6月、産卵のために岸に近づいてくるフナを捕獲し、まず包丁でウロコを取る。
 それから先の曲った針で、おなかのタマゴをくずさないように、腹をかっさばずに、口からワタとエラを抜き取るんだ。ほら、割り箸をマスなんかの口に突っ込んで、ワタを抜くだろう? あんな塩梅だが、こいつはもちろん大変な技術が必要だ。
 次にフナの口に塩をいっぱい詰め込む。そうしてから桶の中に、さらにフナと塩を交互に敷き詰め、押し石をのせるんだ。これを「塩切り」と呼ぶんだそうだ。
 この重しをのせるというのが、熟れずしにおいて重要なんだな。押すことによって空気が押し出されて、適度な醗酵が促される。
 これは、江戸前寿司やおにぎりなんかのように、それほど加重をかけないものでも同じことだ。押すことなくして日本の寿司は語れないんだぜ!
 こうして約10日から1ヶ月、塩でフナの漬け込みをしたあと、水に15分から1時間漬けて、塩出しをする。
 それから中国の古代鮓のように、桶にフナと人肌くらいに暖まった飯を交互に敷き詰め、木のフタをして重しをかける。しばらく日にちが経つと、桶の上に生臭い水が溜まってくるから、これをこまめに取り除き、半年から10ヶ月くらいでようやく美味しく食べられるようになるんだ。

   酒のサカナに鮒ずしは旨いぜ!
 

 かなり昔になるが、マンガ「美味しんぼ」にも鮒ずしが取り上げられていたことがあった。トリフ自慢のフランス人社長と、松茸自慢の社長がケンカをしたので、鮒ずしで仲直りさせるという、相変わらずの強引な話だ。
 ここでフランス人社長は、日本人の中にも臭くて食べられない鮒ずしを『この匂いは、私たちの国のチーズにもある!』と喜んで食べ、めでたしめでたしとなるんだ。
 あのマンガは実によく調べてあるんだが、フグの白子と羊の脳みそが同じような味だといったり…まあ、ちょとムリがあることも多いんだが、同じ醗酵食品ということでは、チーズと鮒ずしで結びつけられないこともない。(現在は羊の脳は売られていません)。
 確かにフランスのチーズには、カマンベールでもタクアンの臭いがしたり、靴下の臭いのするものもある。そんな意味で、鮒ずしってえのはたしかにクセのある臭いなんだが、その中に品の良さがあるんだな。
 それに何より日本酒のサカナには最高だ。
 まったくこの日本酒ほど、魚介類の味を引き立てるものはねえよな〜。 この鮒ずしも日本酒を口に含んだとたん、サッと 臭いが消えて♪ 一杯一杯また一杯とくらあね!
 〆は鮒ずしのお茶漬け!
 スープに合うという古代鮓がここにも息づいているって寸法さ。さあさあ、これから帰って一杯やっかな〜♪
 さて、次回は日本全国の押しずしと、できれば江戸前寿司の登場をお聞かせいたしやしょう。

   
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