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水産物 医食同源
冬はカニだぜ。カニ、カニ、カニ、カニでえ!
掲載日:2000年12月5日

  タラバガニは『カニの姿をしたヤドカリ』
  まいど、まいど。イダテンのゲンさんです!
 それにしても日本は暖かいね。ワシ、先週までロシア極東のペドロパブロフスクカムチャツスキーってトコにいてよ。ハナたらすと、ツララになっちっまう寒さだったぜ。へへ、ペドロパブロフスクカムチャツスキ…ててイテテテ、こんチキショー! また舌を噛んじまったぜ。
 そんなワケのわかんねえトコへ、何しに行ってかって? お客さん、アンタの大好きなモンを買いつけに行ったんですよ。
 タラバガニだよ、タラバガニ。えへへ、冬はカニだぜ。カニ、カニ、カニ、カニでえ!

 おっと、カニってえのは正確じゃねえな。タラバガニってえのは、生物学上はカニじゃなっくてヤドカリの仲間なんだよ。タラバのアシは歩脚とはさみ脚をあわせるとカニ類は5対だけど、タラバは4対だとか、形状的にはヤドカリに近いわけだね。
 何、そんなこと知ってるって? 『カニの姿をしたヤドカリ』がタラバだろうって?
 ははは、お客さんクロートだったよな。すまねえ、すまねえ。でも、カニを食べるお客さんにとっちゃ、タラバがカニでもヤドカリでも、そんなこたあどーだっていいことなんだよな。まあ、飲んでる時のウンチク話くらいにはなるだろーがね。
   でも、やっぱりタラバガニはカニの真打ち!
   それに、ワシらみたいな売り手にとっても『タラバヤドカリ』じゃあ、どうにも具合がわるいやね。 やっぱイメージ的には『カニ』ブランドだよね。 カニには他の素材に代えられない高級感があるだろ?  カニの持つ独特の甘味は、ほかの食材では得られないですからな。
 それにタラバガニの持つ品の良い甘味は、種類は違えどまさにカニの真打ちさ。そう、タラバガニを味的に言うと、ほかのカニ類と比べても糖質とカルシウムが多いんだ。だからよ、タラバのプリッとした身の歯ごたえにコクのある甘味が加わり、そ、そいつがジワーッと口の中に広がると、あおおお! くうっ、た、たまんねーや。
 さあて、そんなワケで今日は『タラバガニ』を中心に、食べ物としての『カニ』の話をいたしやしょう。
   タラバガニはナマケモノが発見した?

 

 どんなお喋りでも、カニを食べる時は静かになるっていうけど、カニがこんな人気が出たのはそんな昔からじゃない。縁起がいいとされたエビにくらべ、カニは映画 『ジョーズ』のファーストシーンみたいに、ドザエモンを食べたりしたんで、あんまり喜ばれなかったんだよね。まあ、 カニは美味しいモンだし、当時は貴重なタンパク源だったろうから、みんな適当に食べてたろーけど、今ほど有り難がらなかったってワケさ。

 そんな意味でもタラバガニが食べられるようになったのは、ごくごく最近。明治時代のことなんだ。
 タラバ漁のはじまりはこうだ。
 タラ漁に出ていたナマケモノの乗組員が、仕事をさぼって網を深いトコに沈めちまったのさ。引き上げたら見たこともない大きなカニがひっかかてて、食べてみたらそいつが旨えの旨くねえのって!
 何? ゲンさん、見てきたみたいに言うなって? がははは、いーじゃねーか。話だよ、話。まあ、諸説はあるものの、これがタラバ漁のはじまりで、和名の由来と言われてるわけだ。
 英語じゃアラスカン.キング・クラブって言うんだぜ。意味わかるかい? 『アラスカ産の王さま蟹』ってえ意味だよ。エヘン、エヘン、エイエイ。何、そのくらいわかるって? アンタ、英語知ってるね。さてはインテリだな?
 ゴホン。そう、つまりその名の通り、産地はアラスカからカナダ沿岸からベーリング海、オホーツク海、 ロシア極東はサハリン、北海道沿岸に限られてる。でも、日本じゃあ、年々採れなくなってるんで、それでワシがロシアまで買いに行ってるワケさね。今、みなさんの口に入るタラバの多くはロシア産なんですよ。
   フレッシュ! タラバくん
   ロシアの連中は手強いぜ。買い付けただけでなく、ちゃんと見張って品質管理をしねえと、せっかくのタラバが台無しになっちまう。ロシア人にウオットカ勝負を挑まれたら、いくらワシが大酒飲みでも、ちと勝てねえな。なにしろ奴らときたら、ウオットカが5本あったら、5本全部開けるまで飲みつづけるんだからよ。

 輸入のカニは決めてが冷凍なんだ。これをロシア人にきっちりやって教え込む。ま、それがワシの仕事でもあるんだ。
 海産物は新鮮さをどうキープするかが勝負だが、カニにはカニのやり方がある。
 カニやズワイの類いは、ペタインやホマーリンていうエキス分がカニ独特の旨味の要素になっている。それがカニがカニたる由縁ダナ。困ったことに、時間が経つとそいつらが酵素作用で自己消化ってのを起こすんだよ。身は痩せるし、旨味のモトはヘンな臭いに分解されて、ヘタすりゃ食中毒成分に変化するんだ。

 ワシのとこじゃあ、生きたまま超低温で急冷するやり方をとってる。下手に生きてるカニより、ずっと味がいいんですぜ。考えてもみなよ。アンタ、自分が生け簀みたいな狭いトコに何日もおかれてみな。カニじゃなくたって、元気がなくなるぜ。
 海のモンは、海のエネルギーをもらうから体にいいんだ。死にかけたカニなんか食ったて、力はつきゃしねえやな。

 何の食材でもそうだけど、カニは特にイキの良さが味に反映するよな。『月夜のカニは身が少ない』って聞いたことあるかい? カニは潮汐リズムによって出産するんだけど、けっこうその体内時計が正確で、アカテガニなんてえ種類のモンは満潮の直後いっせいに幼生を海に放つんだ。いっぺん、タマゴを生み落としたあとのカニを手で持ってみい。本当に軽いよ。まさに体の中は空っぽさ。もちろんそんなモン食えたものじゃないやね。
 食べ物とはまさに命をいただくこと。それがワシの持論さ。
   珍味の王様 『かに子』
   タマゴといえば子持ちのタラバはワシの大好物だな。タマゴは葡萄色をしていて、『かに子』って言うんだよ。タラバの腹にぎっしり詰まってるんだぜ。普通、塩辛なんかにして珍味としてあじわうんだが、新鮮なかに子の味はまた格別でな。ううう!
 タラバの殻から外にハミ出しているのが外子(そとこ)。殻の中でまだタマゴになりきってないのを内子(うちこ)っていうんだが、なんせ、タマゴを生むまで10年かかるタラバガニだ。命の持つエネルギーが違うよ。
 外子は三杯酢で食べると、シャキシャキした食感がいいし、内子の濃厚でコクのある ねっとりした食感はまさに珍味、まあアンタ。一度ぜひお試しあれよ。
   カニの養殖

 

 カニが高級食材として人気があるのは、その素晴らしい味と触感以外に、ある程度以上の希少性があげられるだろう。エビの養殖が盛んなのに対して、カニはほとんど実用に至ってないのが現状だからね。
 成長が早く、3〜6ケ月で商業サイズになるブラックタイガーエビなんかにくらべると、タラバやズワイガニなんか、成熟するのに10年かかるだろ。とても商業的に見合わねえ。
 ワタリガニは狭い飼育場に入れとくと、すぐ共食いはじめて商品にならなくなるし…
 現状じゃあ、タマゴを抱いたメスガニから放たれたゾエア幼生に、ケイソウやミジンコなどで餌つけするんだな。そいつがメガロパ幼生か、適当な大きさの幼カニになってから、放流して水産資源を補う方法しかないわけさ。
 そんな意味でもカニは、実に贅沢な食材といえるだろうな。
   食べる手間も味のうち
   ところでみんな『カニを食べる時は静かになる』って言うだろ、何でかな? そう、もちろんカニが美味しいからだけど、それだけで何で、みんなあんなに夢中になって、食べることに集中するかってとさ。美味しいものは世の中いくらだってあるのに、カニに限っては誰もが極端に無口になる。みかんの皮も剥かないような不精モノだって、カニを食べる手間は惜しまないだろ? 
 ウーム。ワシが考えるところ、食べる手間もカニの味のうちってことさ。
   カニはしゃぶりついて食べよう
   たとえば寿司だって箸使うより、手で食べる方がウマいじゃねーか。あと、ワシはインドに行くとカレーを手で食べるんだ。(もちろんよく手は洗うけどね)。だって、その方がぜったい美味しいんだよ。おそらく手の触感が脳に伝達され、味覚と一体化するからじゃないかな。食べ物は五感で味わえって言うけど、たとえば同じ料理も器が良いと美味しく感じるのは、気のせいじゃないと思うよ。
 カニを手間かけて食べる。それも味のうちダナ。カニの固ーい甲羅と格闘しながら、むしゃぶりついて食べることで、カニの持っている生命を感じ取れることができるワケですよ。
 考えてもみな。タラバガニで言えば海深30〜360mのトコで、10年20年30年もかけて、あの体を造るんだぜ。あの甲羅ができるまで、どれだけのエネルギーがいると思うよ?
 それにご存じだろうけど、カニの甲羅はいいダシがとれるんだ。わかるだろ、旨味のたっぷり秘められたカラにチュウチュウしながら、身をほじくって食べるのがカニの醍醐味なんですよ。

 上海ガニなんざ、チュウチュウ食べる醍醐味にかけては右に出るものはないよな。あの独特の香りも、しゃぶりついてこそ、はじめて美味しく感じるモンじゃないかな。
 毛ガニのホコホコした身もカニ味噌も、手間をかけて、ほじくり出して食べると、倍も美味しいんだ。
 それから、ズワイガニの身をツルリと取り出して酢醤油で食べる、あの瞬間!カニは人を静かにさせる食材。
 そしてまさに、人を幸せにする食材といえるだろうな。
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